「英語ができない」は努力不足じゃない!
ディスレクシア以外に知っておきたい
発達特性とサポート法
脳の処理特性を知れば、学び方が変わる
「うちの子、英単語を何十回書いても覚えられないんです」
「アルファベットは言えるのに、単語になると全く読めなくなってしまって…」
英語学習を始めたお子さんを持つ親御さんから、このような悩みをよくお聞きします。日本の英語教育では、単語が覚えられないと「努力不足だ」「気合が足りない」「もっと繰り返し書きなさい」と片付けられてしまうことが少なくありません。
以前、英語特有の読み書きの困難さである「ディスレクシア(読字・書字障害)」について触れましたが、実は英語学習の壁となる発達特性はディスレクシアだけではありません。
今回は、ディスレクシア以外に注意すべき発達特性と、それぞれの特性に合わせた効果的な英語学習のサポート方法について、詳しく解説していきます。
そもそも「発達特性・発達障害」とは?
「発達障害」と聞くと、特別な限られた人のものと感じるかもしれません。しかし、現在の医学(DSM-5:精神疾患の診断・統計マニュアル)では、発達障害は明確な境界線があるものではなく、「グラデーションのように連続している(スペクトラム)」という考え方が主流になっています。
人は誰しも得意・不得意のデコボコを持っていますが、その特性が、学校や社会といった「多数派に合わせて作られた環境」の中で壁にぶつかり、生活や学習に大きな困難が生じている状態のときに「障害」と呼ばれます。
DSM-5における「神経発達症群(発達障害)」には、限局性学習症(ディスレクシアなど)の他にも、以下のような分類が含まれています。
これらの特性は、複雑な「音の操作」と「文字の結びつけ」を要求される英語学習において、それぞれ異なる形で大きなハードルとなることがあります。
英語学習に影響を与える代表的な発達特性と対策
具体的にどのような特性が英語学習に影響を与えるのか、そしてどうサポートすればよいのかを見ていきましょう。
ADHD注意欠如・多動症
同じことを何度も書くような反復練習が非常に苦痛です。また、頭の中で様々な情報が次々に思いつくため、教室の壁の掲示物や水槽の音、周りの子の動きなどに注意が逸れてしまい、肝心の課題に集中できません。さらに、聞いた音を一時的に脳に留めておく「ワーキングメモリ」が弱い傾向があり、音を記憶して繋げて読む(ブレンディング)作業でつまずきやすくなります。
- 環境の調整:視覚的・聴覚的な刺激を減らした環境を作ります。気が散りにくい端の席にするなどの配慮が有効です。
- 動きを取り入れる:じっと座って書くことを強要せず、バランスボールや少し動ける椅子(スツールなど)を使い、筋肉で姿勢を保ちながら学習させる工夫も効果的です。
- スモールステップ:課題を細かく分け、失敗しないような声掛けで小さな成功体験を積ませます。
ASD自閉スペクトラム症
音の微妙な聞き分けが苦手なケースがあります。また、1つのルールを理解しても、それを別の単語に応用するといった柔軟な学び方が難しい傾向があります。予定外の出来事や、失敗することに対して強い不安やパニックを起こすこともあります。
- 視覚的なスケジュール:言葉だけでなく、「First(まずは学習)- Then(その後に好きな遊び)」のように、見通しと報酬を視覚的にわかりやすく提示します。
- ルールの明示:パニックになった時の対処法を教える「ソーシャルストーリー」や、自分の感情を客観的に色で理解する「Zones of Regulation」といったツールを使い、不安を取り除いてから学習に向かわせます。
コミュニケーション障害群言語症・吃音など
語彙や構文理解に課題があるため、第二言語である英語のルール(フォニックスなど)を理解し、未知の音素を操作する過程でさらなる困難を感じやすくなります。特に英語は日本語にない音素(/r/・/l/・/th/ など)が多く、音の識別・模倣・想起のすべての段階でつまずきが生じやすくなります。また、吃音のあるお子さんは、声を出すこと自体への不安が英語学習への苦手意識として定着してしまうことがあります。
- 正しい発音を無理に強要したり、言い間違いをすぐに訂正したりするのではなく、指導者が正しいモデルを示し、安心して声を出せる環境を作ることが大切です。
- 音読よりも先に「聞いて理解する」段階を丁寧に踏むことで、自信を持って発声できるようになっていきます。
運動症群・不器用さ発達性協調運動障害など
姿勢を保つことや、手先の細かい操作が極端に苦手なため、線をまっすぐ書けなかったり、鉛筆をうまく持てなかったりします。「単語を100回書いて覚える」といった作業は、彼らにとって学習ではなく「苦痛な手の運動」でしかありません。
- 筆記具の工夫:筆圧がいらない太いマーカーや濃い鉛筆を使ったり、正しい持ち方をサポートする「ペンシルグリップ」を活用したりします。失敗してもすぐに消して書き直せるホワイトボードを使うのも有効です。
- 書く負担を減らす:ノートに書く代わりに、アルファベットのマグネットや文字タイルを並べて単語を作る(エンコーディング)パズルのような練習を取り入れます。
見えない「感覚」と「認知」のアンバランス
上記のような診断名がついていなくても、学習の土台となる「感覚」や「認知処理」の偏りが英語学習の壁になっていることがあります。
感覚統合の重要性
👁 視覚・聴覚
文字を見る・音を聞くといった学習の表面的な感覚
⚖️ 前庭覚
揺れやスピード、頭の位置を感じる。姿勢の安定に関わる
💪 固有覚
筋肉や関節の動きを感じる。鉛筆の持ち方・筆圧の調節に関わる
✋ 触覚
触れた感触を感じる。道具や文字カードを使う学習の土台
「椅子から落ちそうになる」「常にクネクネしている」「鉛筆を噛んでボロボロにする」といった行動は、ふざけているのではなく、この感覚の土台が不安定で、脳が無意識に刺激を求めているサインかもしれません。
同時処理と継時処理
🗺️ 同時処理
物事の全体を視覚的・空間的にパッと捉えるのが得意
🎵 継時処理
順序立てて段階的に処理する(耳で聞いて順番に処理する)のが得意
ワーキングメモリが弱く、継時処理(音を順番に処理すること)が苦手なお子さんは、英語特有の「/c/ /a/ /t/」と音を順番に聞いて1つの単語にくっつける(ブレンディングする)作業が非常に苦手です。頭の中に音を留めておけないため、指を折って音の数を数えたり(Tap it)、ポペットやブロックなどの「マニピュラティブ(具体物)」を使って、見えない音を物理的に触れる形(視覚・触覚)に変換してあげることが不可欠です。
丸暗記の苦痛から解放する「科学的アプローチ」
特性を持つ子どもたちに、これまでの日本の主流であった「気合で100回書いて覚えなさい」「とりあえずたくさん聞き流しなさい」という指導を押し付けることは、彼らの脳の特性に逆らう行為です。それは学習効果を生まないばかりか、「自分はダメな子だ」と自己肯定感を大きく奪ってしまいます。
Science of Reading のアプローチ
英語圏の特別支援教育でも標準となっているこの指導法では、いきなり文字を書かせるのではなく、複数の感覚を同時に使いながら段階的に音と文字を結びつけていきます。
このような「多感覚アプローチ」と「スモールステップの明示的な指導」を用いることで、アルファベットすら書けなかった学習障害の中学生が単語テストで満点を取り、自力で長文を読めるようになり、英検に合格するといった劇的な変化が実際に数多く報告されています。
✅ まとめ
「単語が覚えられない」「授業に集中できない」「文字が書けない」。これらのお子さんの姿は、決して「努力不足」ではありません。
発達特性は、正しい理解と、脳のメカニズムに沿った科学的な「基本ソフト(OS)」のインストールさえあれば、必ず乗り越えられます。
もしお子さんが英語学習で苦しんでいるなら、「やり方」を変えるタイミングかもしれません。お子さんの特性をよく観察し、その子に合ったパズルのような楽しい英語の世界への扉を開いてあげてください。









この記事へのコメントはありません。