カナダ式脳科学フォニックス®️学校の先生フォニックス指導報告会

「話せるのに、読めない」——学校現場で音と文字の指導に踏み出した先生たちの実践報告
Science of Reading

「話せるのに、読めない」

学校現場で音と文字の指導に踏み出した先生たちの実践報告

2026年8月|フォニックス指導 実践レポート

先日、英語指導者向けのフォニックス指導成果報告会を開催しました。小学校の教諭、中学校の教諭、民間の英語教室を主宰する講師——立場も勤務地もばらばらなカナダ式脳科学フォニックスの認定講師たちが集まり、それぞれが自分の授業に「音と文字をつなぐ指導」をどう組み込んだのかを持ち寄る、2時間あまりの会でした。この記事では、その場で共有された実践知を、同じ課題を抱える指導者の方に向けて整理します。なお参加者の氏名・地域・学校名はすべて伏せています。

1出発点にあった、共通の違和感

冒頭から終盤まで、繰り返し立ち上がってきた言葉があります。「話せるのに、読めない」です。ある小学校の先生は、こんな場面を紹介してくださいました。英語をとても上手に話す児童が、黒板の2文字の単語を指して「これ、なんて読むんですか」と尋ねてきたそうです。単語は it でした。六年生が本文のなかから can という語を見つけられなかったこともあったといいます。五年生から英語をやってきて、あれだけ流暢に話す子が、です。この先生は「衝撃でした」と振り返っていました。

「話せることと読めることは、別の力なのだ」

中学校の先生からも同じ趣旨の報告がありました。多くの生徒がローマ字読みから抜け出せておらず、ルールさえ知っていれば読めるはずの単語が読めない。しかも間違った読み方で覚え直さなければならない。「二重の苦しみになっている」という表現が印象に残りました。

この日、参加者全員の出発点になった気づき

子どもたちは読めないのではなく、読み方を教わっていなかっただけ。この認識の転換が、参加者に共通する出発点でした。

2小学校の実践①——一レッスンを二回に分け、十分の帯活動に

最初に報告された先生は、三年生から六年生までを担当し、前年の六月から読み書き指導を取り入れたそうです。始めるにあたって決めたことは二つ。

始めるときに決めた2つのこと

  • 取り入れ方:初めてやることなので、自分自身が無理なく続けられるよう十分前後で完結する構成にした
  • 指導順序の変更:教材の単元順を入れ替え、アルファベットを扱う単元を四月のいちばん最初に持ってきた(三年生の段階で大文字も小文字も導入)

さらに、一つのレッスンを2回に分けて組み込んでいます。前半は音の確認と、その音が入っている単語を読む練習、音から文字を書く練習。後半は復習に加えて、例外語や短文の読み、テキストの音読といった「読み中心」の活動にあてています。この工夫には「各活動の時間が確保できそう」「1回15分程度でこれだけの成長があるのはすごい」と、参加者から反響が集まっていました。

3小学校の実践②——自己流をやめたら、褒められる場所が増えた

二人目の先生の報告で印象的だったのは、「褒める場面が変わった」という指摘です。それまで褒めていたのは主に「話せたこと」でした。ですから、話せない子は英語ができない子に見えてしまいます。しかし体系的な音の指導を入れてから、褒める切り口が一気に増えたそうです。「音がちゃんと聞き取れたね」「これ、読めたね」「音を聞いて、文字で書けたね」。間違いがあっても「この部分はできているから大丈夫だよ」と、細かい単位で認められるようになりました。

その結果、これまで見えていなかった子が見えるようになったといいます。恥ずかしくて人前で声が出せない子、場面緘黙の傾向がある子。話す活動だけでは評価しようがなかった子たちを、「ちゃんと聞けている」「書けている」という形で評価できるようになりました。

指導者側の変化も大きかったそうです。自己流だった頃はなぜ読めないのか理由を特定できなかったのに、ブレンディング(音をつなげる操作)ができていないからかと、「できていない」理由とスキルを特定できるようになりました。教材選びも変わり、既習の音だけで読めるテキストを使うようにしたところ、子どもたちが「読める」と喜んでよく読むようになったといいます。明確に、体系的に、いつも同じ言葉で説明する。それが「私にも子どもにも安心感につながっている」という言葉が、この報告の核でした。

子どもの側では、授業の中で「できた」と感じる場面が増え、苦手な子でも「フォニックスは分かる、好き」と言うようになりました。得意な子からは「言葉の仕組みが分かってすっきりした」という声も出たそうです。初めて見る文でも読めるという体験が自信につながり、自ら「読みたい」と手を挙げる子が増えたといいます。

4小学校の実践③——年間計画に溶かし込む設計

三人目の先生は、45分授業の設計そのものを共有してくださいました。興味深いのは、アルファベットを扱う単元を独立させず、年間を通じて毎時間の帯活動のなかで少しずつ扱う設計にした点でした。

45分授業の内訳

  • 冒頭10分:帯活動としてアルファベットと音の時間
  • 次の30分:教科書の本活動
  • 最後の5分:振り返り

結果として、一学期の目標が第三単元までだったところ、毎時間10分を音の活動に使いながら、第四単元までほぼ終えられたそうです。帯活動の中身は、音をつなげたり分けたりする音韻操作、音を一つずつ声に出して確認するドリル、その日の新しい文字の導入とその音の学習です。ローマ字読みに引っ張られやすい子も出てきますが、全員で一つずつ丁寧に発音することは崩さないそうです。

5中学校の実践——毎日十五分を、五か月続ける

後半では、中学校での二つの実践が紹介されました。中学校は制約がより厳しく、参加者からは「週4時間のうち1時間はALTと会話中心の授業なので、実質週3時間で教科書を終わらせている。帯活動の時間を捻出するのが本当に難しい」という切実な声が出ました。

それでも成果は出ていました。ある先生は、一度もフォニックスも音素も学んだことのない中学三年生の学年を四月から担当することになり、最初の一か月はフォニックス優位で進め、そこからカリキュラムを追いかける形にしたそうです。共有された一学期末のアンケート結果は次の通りです。

43%
「英語が好き」と回答
43%
「そう思わない」と回答
7割以上
「以前より読める/書けるようになった」

そのうえで「授業が分かりやすい」と答えた生徒がほとんどを占めていました。自由記述には「頑張ってローマ字読みして覚えていたけれど、単語の読み方を知るだけで分かるようになった」という声があり、スペルミスや読み違いが明らかに減ったと生徒自身が書いています。

もう一人の先生は、中学一年から三年までの全クラスを担当し、十月から二月末まで毎回の授業の最初の15分をこの活動にあてました。音の数を四角で可視化しながら、mat を map に、map を mop に変えるにはどうすればよいかを生徒同士で確認し合う十五分です。挙げられた変化は、高い集中力のまま本来の授業に入れるようになったこと、必ず声に出すので発声が増えたこと、「これ違うよ、この音だよ」といった教え合いが生まれたことの3つでした。年度末には、担当した五クラスすべてでリスニングテストの得点が上がっていたそうです。読み書きの指導をしていたのに聞く力が伸びた——参加者からも驚きの声が上がった場面です。

6中学生からでも遅くない、という具体例

「中学生からでは遅いのではないか」という問いは、この日繰り返し出てきました。それに対する答えの一つが、次の事例です。

補習に来た3名の生徒。不規則動詞の過去形・過去分詞を学びたいとの希望だったので、音から書けるこの学習法で指導したところ、わずか2時間の指導で単語テストの点数がほぼ満点に。いつもは授業中に寝てしまうことがあった生徒でも、断片的に残っていた音のルールをもとに「この音だからこう書く」と整理し直すだけで得点が伸びました。

もちろん万能薬ではありません。指導した先生自身「少人数だとできるのに一斉指導では難しさがあり、取りこぼしがあったと感じています」と率直に振り返っています。

時間のない現場にこそ効く積み上げの視点

「一日5分やれば週4時間で20分、一か月で80分になる」

7現場のリアルな壁と、その越え方

グループ討議では、うまくいった話と同じくらい、うまくいかない話も共有されました。それでも参加者たちは、それぞれのやり方で一歩ずつ壁を越えていました。

現場の壁具体的な対応
時間の壁(カリキュラムがパンパン) 「一日5分×週4時間=月80分」の積み上げ発想で、無理なく継続
立場の壁(複数指導者間の温度差) 研修や春休みの面談のたびに内容を共有し、一人ずつ理解者を増やす
校内合意の壁 子どもには日本語も交え「なぜこれを学ぶのか」を説明。管理職には機会を見つけて話をしに行く
着任1年目の悩み(どこまで踏み込めるか) 既存の授業の流れを尊重しつつ、まず自分にできる範囲から始める

校内の合意という壁については、ある先生が「一人ずつ理解者を増やしていきました」という言い方で、実態をよく表していました。この先生自身、「今日はやめておこうか」と思ったことは何度もあったそうです。それでも続けられた理由は二つ。他の地域で同じ実践をしている先生と進捗を報告し合っていたこと、そして子どもたちが「できた」と感じる瞬間に立ち会えたことでした。

8完璧を待たない

終盤で繰り返し確認された姿勢があります。「完全に準備してから始めようとすると、間に合わない」ということです。やりながら間違いに気づくこともありますし、日本語話者である以上、英語の音を取り違えていることもあります。それでも走りながら学ぶ。

「自分もまだ下手ですが、下手でもやっていったほうが絶対に子どもにとってはいい」

最後に共有されたのは、英語圏の学校との比較でした。英語を母語とする国の小学校でも、国語にあたる時間の一部を、明確に順序立てた読み書き指導にあてています。ネイティブスピーカーの子どもであっても、音から体系的に教えなければ読めるようにはならないからです。日本の学校に余裕がないのは承知のうえで、それでも「ここは無視できない」というのが主催者の主張でした。そのうえで示された役割分担は現実的です。学校は限られた時間のなかで、まず全員に届く一次指導をきちんと行う。民間の講師や外部の指導者は、そこでこぼれてしまう子どもを支える。

「みんなで同じ方向を向けば、日本の英語教育はもっと変わる」

おわりに

二時間の会で共有された実践に、特別な魔法はありませんでした。授業の最初に10分から15分を確保する。単元の順序を入れ替える。音から文字へ、文字から音へという往復を、毎回同じ手順で丁寧に繰り返す。それだけです。ただ、その「それだけ」を続けた先に、初見の単語が読める子どもや、「読みたい」と言い出す子どもや、年度末に再テストが増えないクラスがありました。地味な積み重ねが結果に変わるプロセスを、複数の現場から同時に見せていただけたことが、この日いちばんの収穫でした。いま自分の授業のどこに脳科学フォニックスを学ぶ10分をつくれるか。そこから考え始めるだけでも、十分に価値のある問いなのではないでしょうか。

※本記事は、英語指導者向けに開催されたフォニックス指導成果報告会(2026年開催)での実践共有をもとに構成しています。参加者の氏名・地域・学校名はすべて伏せています。

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