カタカナ英語はなぜ抜けないのか

カタカナ英語はなぜ抜けないのか
Science of Reading

「発音は、あとから直せばいい」

カタカナ英語はなぜ抜けないのか

2026年8月|脳科学から考える発音指導

英語を学び始めたばかりの小学生の教科書にカタカナがふられ、中学生は先生の言葉をカタカナで書き取って一生懸命暗記する。発音なんて意識しなくても、それなりに言えていればいい。テストで正しく答えられる英語が大事なのだ——本当にそうでしょうか。カナダの小学校で働き、オンラインでたくさんの方に英語の読み書きを教えていて、私はむしろ最初にどんな音として覚えるかが、とても重要だと感じています。なぜなら、発音は単に「口の動かし方」の問題ではないからです。

1私たちは「聞こえた音を、そのまま聞いている」わけではない

私たちは英語を聞いたとき、耳に入ってきた音をそのまま録音するように記憶しているわけではありません。聞こえてきた音を、自分の脳の中にある「音のカテゴリー」に当てはめながら聞いています。ここに関係するのが音韻表象(phonological representation)です。例えば英語の /r/ と /l/。right / light、road / load などは、日本語話者にとって聞き分けるのも発音するのも難しい音としてよく知られています。でもこれは、単に日本人の「耳が悪い」からではありません。母語の音韻体系が、私たちの音の聞き方そのものに影響しているからです。

6〜8か月
日本もアメリカも /r/-/l/ の違いに反応
10〜12か月
アメリカの乳児は識別力アップ、日本の乳児は低下

Patricia Kuhlらは、アメリカと日本の乳児を対象に、英語の /r/-/l/ の聞き分けを調べました。つまり、生まれたときから「日本人にはRとLが聞こえない」のではありません。周囲の言語をたくさん聞く中で、「自分が生きている言語では、どの音の違いが重要なのか」を脳が学習していくのです。これはperceptual narrowing(知覚の狭小化)、Kuhlらの理論ではNative Language Neural Commitmentという考え方で説明されています。これは能力が「落ちた」というよりも、脳が母語を効率よく処理できるようになったと考えた方が近いでしょう。

2では、なぜ英語が「カタカナっぽく」聞こえるのか

日本語と英語では、「あり得る音の並び方」が大きく違います。日本語では基本的に、子音のあとに母音が続く形が多く、英語のように子音がいくつも連続する語(strike、spring、desk など)は多くありません。

Dupouxらの1999年の研究

日本語話者とフランス語話者に、日本語では通常現れにくい子音連続を含む人工語 /ebzo/ を聞かせたところ、日本語話者は実際には存在しない /u/ を補って /ebuzo/ のように聞く傾向を示しました。さらに、実際に母音がない語と /u/ が入っている語を区別することにも苦労しました。

私たちは必ずしも「耳から入ってきた音響信号を、そのまま聞いている」わけではないということです。脳が「日本語なら、この音の並びになるはず」という既存の音韻体系に合わせて、音を解釈しているのです。

3cat が「キャット」になるとき、何が起きているのか

英語の cat は /kæt/。英語では1音節、3音素の単語です。ところが日本語では通常「キャット」と表します。「キャット」というカタカナが悪い、という単純な話ではありません。問題になるのは、英語そのものを学習しているときにも、日本語化された音を「英語の正しい音」として覚えてしまうことです。/kæt/ を /k/+/æ/+/t/ という英語の音として捉えるのではなく、最初から「キャット」という日本語の音のまとまりとして記憶してしまう。最後の /t/ という音は舌を弾いて音がないのに対し、「ト」は母音の音が入り喉が鳴る音になってしまいます。そうすると、あとから英語本来の発音を聞いても、自分の中にすでにある音の記憶に引っぱられやすくなります。

4「カタカナを見たら発音が悪くなる」とまでは言えない

慎重に書いておきたいこと

「カタカナを使うと音韻表象が固定される」ということを、これらの研究が直接証明しているわけではありません。Dupouxらの研究が示しているのは「母語の音韻体系が、外国語の音の知覚そのものを変えうる」ということです。

一方で、文字情報が発音や音の記憶に影響することを示した別の研究もあります。Hayes-Harbらは、新しい単語を学習するとき、耳から入る音だけでなく、一緒に提示されるスペリングが、その単語の音韻表象に影響することを実験的に示しました。またBassettiとAtkinsonは、長期間英語を学んでいる第二言語学習者でも、単語のスペリングが発音に影響することを複数の実験で確認しています。音の記憶と文字の記憶は完全に別々ではありません。だからこそ、「まずカタカナで読み方を書いて覚えて、あとから正しい発音に直す」という方法には注意が必要なのです。最初にできた「文字―音」の結びつきが、その後の発音にも影響する可能性があるからです。

5でも、大人になったらもう遅いの?

ここまで読むと「じゃあ、小さい頃に正しい英語の音を習わなかったら、もう手遅れなの?」と思うかもしれません。そんなことはありません。日本人成人を対象にした /r/-/l/ の研究では、訓練によって音の聞き分け能力が改善することが繰り返し示されています。

Logan、Lively、Pisoniらは、同じ単語・同じ話者の音声だけを繰り返すのではなく、複数の話者 × 多様な単語 × 異なる音声環境で /r/-/l/ を聞かせるトレーニングを実施。日本人成人の識別能力が改善し、学習に使っていない単語や新しい話者の発音にも学習が汎化しました。さらにBradlowらの研究では、知覚トレーニングの効果が聞き取りだけでなく発音にも波及しました。

1999年の追跡研究では、その改善がトレーニング終了から3か月後にも維持されていました。大人の音声知覚にも、変化する力は残っています。

6ただし、「聞き流すだけ」と「音を学習する」は違う

訓練が繰り返している4ステップ

  • 音を聞く
  • どちらの音なのか判断する
  • フィードバックを受ける
  • 別の話者・別の単語でもう一度聞く

Bradlowらが報告した訓練では、15日間に45セッション、合計およそ15〜22.5時間の知覚訓練が行われていました。つまり「英語をたくさん聞けば、そのうち自然に発音が直る」とは少し違います。すでに母語の音韻カテゴリーが十分にできあがっている学習者ほど、音に注意を向けること、違いを認識すること、そしてフィードバックを受けることが重要になります。

7「早く始める」の意味も、少し整理しておきたい

「小学校低学年までは、まだ日本語の音韻カテゴリーが固定されていないから大丈夫」という説明を耳にすることがありますが、これは乳児研究から見ると正確ではありません。先ほど紹介したKuhlらの研究では、すでに生後6〜12か月の間に、母語に合わせた音声知覚の変化が観察されています。幼稚園や小学校低学年の子どもも、すでに日本語を聞くための音韻システムはかなり発達しているのです。ですから「◯歳までなら間に合う」「◯歳を過ぎたら手遅れ」という話にする必要はないと思います。むしろ、何歳であっても、その年齢に合った方法で英語の音を明示的に教えると考える方が、研究にも合っています。

8だから、私は英語の最初に「音」を教えたい

私が大切にしたいのは、英語を学び始めた子どもに、いきなり cat=キャットと覚えさせるのではなく、まず /k/ /æ/ /t/ という英語の音そのものに気づかせることです。聞いてみる。同じか違うか比べてみる。口をどう動かしているのか確かめてみる。自分でも発音してみる。そして、その音に文字を結びつけていく。

聞く → 音を認識する → 発音する → 文字と結びつける

フォニックスというと「文字の読み方を覚えるもの」と思われがちですが、本来その前提にあるのは音素(phoneme)です。a は「ア」、r は「アール」と覚えるのではなく、「この文字は、この音を表している」という音と文字の対応を作っていく。ここがとても重要です。文字を見て、音を思い出せること。これはフォニックスを学ぶことにつながります。そしてそのフォニックスを学んだ上で、単語のスペルのルールや音節の種類を学ぶ。そうすると見たこともない単語も読めるようになります。何よりも驚きなのは、この学習をしていくと、発音が上がるだけではなくリスニングの点数がはじめに上がることです。英語の土台づくりをすることで、どんな年齢の人でも大きく変わっていくのを目の当たりにしています。そこにカタカナを使用することはほとんどありません。

発音は「あとから付け足すもの」ではない

英語の音をどう聞くか。単語をどんな音として記憶するか。その音と文字をどう結びつけるか。これは、リスニングにも、スピーキングにも、そして読み書きにもつながっています。もちろん、ネイティブのような発音を目指さなければならない、という話ではありません。大切なのは、英語にある音の違いに気づき、自分の中に英語の音のカテゴリーを作っていくこと。そして、最初から日本語の音だけを経由して英語を覚えないことです。「発音なんて、あとから直せばいい」ではなく、発音も、聞き取りも、読み書きも、最初からつながっている。私は、そう考えています。何歳からでも、適切なトレーニングによって音の知覚と発音は変えていけることも分かっています。だから必要なのは、「もう遅い」と諦めることでも、「小さいうちにネイティブの音声を大量に聞かせなければ」と焦ることでもありません。音を聞く。音を分ける。音を発音する。そして、その音を文字につなげる。この土台を丁寧に作っていくことだと思います。

※本文で紹介した主な一次研究

  • Kuhl, P. K., et al. (2006). Infants show a facilitation effect for native language phonetic perception between 6 and 12 months. Developmental Science, 9, F13–F21.
  • Werker, J. F., & Tees, R. C. (1984). Cross-language speech perception: Evidence for perceptual reorganization during the first year of life. Infant Behavior and Development.
  • Dupoux, E., et al. (1999). Epenthetic vowels in Japanese: A perceptual illusion? Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 25, 1568–1578.
  • Logan, J. S., Lively, S. E., & Pisoni, D. B. (1991). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: A first report. JASA.
  • Bradlow, A. R., et al. (1997, 1999). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/. JASA / Perception & Psychophysics.
  • Hayes-Harb, R., Nicol, J., & Barker, J. (2010). Learning the phonological forms of new words: Effects of orthographic and auditory input. Language and Speech, 53, 367–381.

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